中学中学校教頭、田中歩先生インタビュー第2回

-工学院の共育のかたち- 田中教頭が語る、保護者と教職員の力で支える生徒の未来

今年4月の教頭就任から現在、2学期が終わろうとしています。このインタビューでは、教頭としての田中 歩 先生がこの8か月でどのような気づきを得たのか、そして今後のビジョンについてお話を伺います。生徒たちと日々関わり、新しい取り組みに挑戦する中で田中先生が感じること、そして工学院での教育の未来について語っていただきます。

今年4月に教頭に就任、2学期も終了する時期ですが、この期間での気づきや今後のビジョンについてお聞かせください。

この8か月間は多くを学び、生徒との日々の関わりや新しい取り組みは、私にとっても深い成長の機会でした。
1年生の入学時に「10年後の自分」という課題で、10年後の自分と社会についてレポートと絵を提出してもらったんです。そこには、医師や科学者として社会に貢献したいという夢や、自分が成長して家族を支える姿などが描かれていて、濁りのない純粋な希望にあふれていました。生徒たちの描く将来のビジョンを尊重し、そのまままっすぐに夢が実現できるようにサポートしていきたい。生徒たちがデジタルネイティブであることは知識だけの経験不足を生む要因でもありますが、そこは我々がサポートすることで強みとして捉えていく、そんなモチベーションからのスタートでした。

現在は、どのようなプログラムが行われているのでしょうか?

たとえば私の授業はIBL(Inquiry Based Learning)という科目名で、探究型の学習方法を授業に組み込んでいます。授業の中で生徒たちは自ら問いを立てて調べ、考え、他者と協働する力を養う。そのプロセスが生徒たちの学習意欲を引き出し、自分軸の思考を育てながら将来の問題解決にとても大切な力を養います。思考に年齢や立場の壁はありません。本校の教職員と生徒の距離感が近いのは、その部分を意識的に取り入れ、対等な関係でお互いの思いを尊重し合っている結果だと思っています。
生徒たちは自分にはない知見を共有、共感すること自体を、「嬉しい」と感じてくれています。
このプロセスにおいて重要なのは、生徒たちが「自分の学び」に責任を持つことなんです。問いを立て、その答えを探す過程で自分の力を試し、時には失敗から学ぶことも大切な学びです。

思考をオープンにして協働することに、困難な生徒もいるのでは?

保護者も同じ心配をされる方もいらっしゃいます。でも、どんなに静かな生徒でも、内に秘めた思考は必ずあるので、”伝えるべき時に伝えられるように”していく。逆に発語の多い生徒は他者の理解を得るためにまずは思考をまとめる力が必要かもしれません。それぞれに応じた力をつけていき、思考を拡げる機会を増やすこと、グッと一歩を踏み出す勇気を持たせることが私たちの役目です。経験の幅を広げるために、「なんでもやってみたらいい」と生徒に言える先生も多く、生徒からの提案も多いです。生徒中心であることが目に見えて分かるシーンを増やしていきたいですね。

教職員同士のコミュニケーションも大切な要因となりますね。

そうですね、先生方の授業を見学するたびに、伝える方法を工夫しながらフィードバックをしますが、私の言う通りに変えてもらうことはしません。教員間でも互いにbetterを考え対話しているので、あくまでも1つのアイデアの提案です。教員室はコミュニケーションの風通しも良く明るい雰囲気ですし、学外の教職員や教育関係者とのネットワークで学ぶ場も多い。生徒に思考のインプットやアウトプットを求めるからには、まずは教職員から、といったところでしょうか、それがすでに自然にできる環境にあるので恵まれていると思います。

確かに工学院の中学の授業は先生が誘導するにぎやかな時間が目立つかもしれませんね。

そうなんです。そこは私たちの得意のコーチングのノウハウが生きるところであり、ファシリテーション技術の積み上げが成せるところです。工学院のアクティブラーニングの歴史は長いですから、“場”を作ることを習慣的に続けてきています。目的や方向性のない場にはしないですし、先生方はむしろ場が静かであるほうがやりにくいと思います。

中学から工学院で学ぶことの意義はそのあたりにありそうですね。

中学から工学院に入学すると、生徒たちが工学院のマインドセットを早期にスタートさせるということになります。工学院は、型にはまった”大人が好む生徒”にはしません。個々のユニークさを大切に、自主性を育てる3年間ですからその意義は大きいです。生徒たちは多くの時間をかけて、自分軸の思考を持ち共有する経験を積みます。そして、その過程で生徒には自分の可能性を信じてほしい。高校に進学した一貫生は、高校から入学する生徒たちにとって工学院の教育のマインドセットを備えたロールモデルとして存在していて、思考(心)をオープンにするための、良い意味で風穴を開けてくれています。

自己の確立のための多様なプログラムを生徒たちはどのように将来に活かしていくのでしょうか。

生徒たちにとって必要なことを見極め、それぞれの体験が単なる点にとどまらず、つながりとして意味を持つようにサポートしていきたいと考えています。根底には、学校、生徒の双方向だけでなく、保護者も交えて教育を築いていきたいという思いがあります。今後は保護者の方々の社会経験を生徒たちに伝えて学びとする機会も考えています。Webで実際に経験せずに満足することが多い時代、経験がないという恐れから挑戦を怖がることがないよう、困難な状況に出会った時に工学院での経験や他者との協働でグッと力強く立ち向かっていける力を付けていきます。IBLや多様なプロジェクトなど、体系化されたこれらの“点”を効率よく“線”で結び、生徒たちの成長の一貫性を保ちながら、中高全体として豊かな学びを通して生徒たちの望む将来に限りなく近づけて行きたいですね。

田中先生のお話から明るい中学生たちの姿を思い浮かべると、確かに生徒たちの様子はお話の内容に合致した印象があって、教育方針や環境の影響、そして田中先生の力強いリーダーシップの底支えが非常に大きいことを改めて感じました。
生徒たちの成長がますます楽しみです。本日はありがとうございました。

(広報室)