高校
2025/05/15
オーストラリア3か月留学 - それぞれの場所でみつけた「わたしの力」-
2025年度、本校から7名の生徒が3か月間のオーストラリア留学(ホームステイ)に挑みました。
留学先は、それぞれ異なる地域・学校・家庭環境。英語力や性格もさまざまな中で、彼らが共通して経験したのは、「言葉を超えて人と関わる」ということの難しさと、そこにある大きな学びでした。 今回はその中から3名——K.K.さん(John Paul College・ブリスベン、先進文理コース)、H.H.さん(St Paul’s School・ブリスベン、文理コース)、K.A.さん(Gleeson College・アデレード、インターナショナルコース)、にインタビューを行い、それぞれの視点から見たオーストラリア3か月留学のリアルを紹介します。
“相手に届く言葉”を探して ── K.K.さん(先進文理コース)がJohn Paul Collegeで学んだこと
英語に自信がないまま、オーストラリア・ブリスベンのJohn Paul Collegeへと飛び込んだK.K.さん(先進文理コース)。「私にできるのかな」という不安を抱えながらも、現地の授業と日々の会話の中で、少しずつ“言葉にして伝える力”を育んでいきました。戸惑いと試行錯誤の先に彼女が見つけたのは、伝えようとする姿勢そのものに価値があるという実感でした。

■ 英語に自信はなかった
「英検は準2級を持っていたんですが、会話となると全然。単語を並べるくらいしかできなかったんです」
K.K.さんは、英語に特段自信があるわけでもなく、けれど「オーストラリアのブリスベンで学んでみたい」という思いだけで留学を決めました。事前に単語アプリを使って少しずつ語彙を増やしてはいたものの、出発前の心境は「とにかく不安だった」と振り返ります。

■ 6人のクラスで全員が話す
John Paul Collegeでは、インターナショナルコースに所属。地元の生徒のクラスではなく、留学生のクラスです。1クラスわずか6名前後という少人数での授業が中心でした。「人数が少ないからこそ、全員に発言の機会があるんです。先生は一人ひとりに質問を振って、クラス全体が自然と会話に参加できる雰囲気を作ってくれました」授業の内容も特徴的で、毎回異なる社会テーマをもとに、2人1組のペアでディスカッションを行いました。「貧困とか飢餓とか、難しいテーマもありました。最初は単語が思い出せなくて焦りましたが、先生が写真や絵を見せながら丁寧に説明してくれたので、内容を理解してから会話に入っていけました」
授業はリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングに加えて数学や体育もあり、使用するテキストは、ほとんど先生から配られるプリント。パワーポイントを使ったホリデーの発表など、ICTを活用した活動も多く、他国の生徒の文化に触れる機会にもなりました。
■ 自分の意見を言葉にするということ
授業中、先生から頻繁に投げかけられる「What do you think?(あなたはどう思う?)」という問い。最初は戸惑いながらも、徐々に「何か言わなきゃ」から「自分はこう考える」という感覚へと変わっていきました。
「自分の意見を持っていないと、会話が続かないんです。先生もクラスメイトも、きちんと耳を傾けてくれて、更に訊ねてくれるから、思ったことを言葉にすることが怖くなくなりました」
■ 家族との温かな時間
ホストファミリーは両親と、成人した姉・兄が4人いる大家族。毎日の送り迎えや弁当作りなど、全面的にサポートしてくれる温かな家庭でした。「家事は全くしませんでした。“休んでていいよ”と言ってもらっていました。夜は家族みんなとおしゃべりして過ごしました。その日の出来事についてたくさん質問をしてくれました」
特に印象に残っているのは、ホストマザーのお弁当に入っていたサンドイッチ。「中身が毎日違っていて、今日は何かな?と、楽しみでした」
でも、そんな温かい家族に囲まれて、逆にホームシックになったそう。「家族はフィリピン出身の方だったので食事は魚やお米を毎日食べていたくらいだったのに、それでもやっぱり日本のご飯は違う。日本のご飯から思い出す日本の家族が恋しかったです」
家族とのやりとりや、ショッピングモール、コアラセンターなどへの外出も、日常の中で自然と英語に触れる貴重な時間となりました。

■ 英語が理解できるようになった瞬間
「1か月経った頃から、耳が慣れてきたのが分かりました。人が何を言いたいかが分かるようになってきて、リスニング力が一番伸びた実感があります」
特に印象的だったのは、言葉だけではなく、身振り手振りや表情を通して伝わることの多さ。「覚えようと頑張ったわけではなくて、自然と使えるようになっていました」
■ “言えた”ことが自信に
ある日、友人とショッピングモールを歩いていたとき、知らない男性から「電話番号を教えて」と声をかけられる出来事がありました。「以前の自分だったら、流されて教えていたかもしれません。でも、“これはNOと言うべきだ”と強く思えて、しっかり断ることができました」
この体験が、自分の中の判断力と意思表示への自信につながったといいます。
■ 留学を終えて
「伝えるということが、相手が日本人かどうかに関係なく大事なことなんだと気づきました」
文化が違えば“察する”力にも違いがある。黙っていては伝わらないからこそ、「自分の意思を言葉にする」ことの価値が強く実感できた3か月だったと語ります。
「英語力だけじゃなくて、“どう伝えるか”“どう断るか”“どう感謝するか”、そのすべてが学びでした」
「帰国してからも、英語をもっと学びたいと思うようになりました。自分の気持ちや感謝を、もっと思うように伝えられるようになりたいから」
海外ならどこでもよいわけでなく、将来もう一度ブリスベンに戻りたいのは、自分の言葉で今回の出来事にしっかりと感謝を伝えたいから。「今度は“暮らすように”過ごしてみたいので、仕事という形もいいかな」と考えているそうです。
「3か月は短いけれど、すごく濃い時間でした。迷っているなら、行ってみたほうがいい。自分で行くことを決めて、自分で話して、自分で行動する。自分が思っているより、自分はできる! ということがわかるから」
“英語が苦手”と思っていた私が、手にした自信──H.H.さん(文理コース)がSt Paul’s Schoolで学んだこと
「英語ができない」と自分を評しながらも、留学を決意したH.H.さん(文理コース)。行き先は、オーストラリア・ブリスベンにあるSt Paul’s School。勇気を出して飛び込んだ異文化の中で、彼女が見つけたのは、“話す勇気”と、“できたことに気づく力”でした。

■ 英語に対して苦手意識しかなかった
「もともと英語はすごく苦手で、周りの中でも一番できない方でした。中学生のころから英語の授業がよくわかってなかった自覚はありました。留学が決まってから、急いでオンライン英会話を始めたのですが、“be動詞からやりましょう”と言われて改めて本当に焦りました」それでも毎日25分、フィリピンの講師とオンラインで話し続けた日々が、後の3か月を支える土台になったといいます。
「最初は全然話せなくて、沈黙も多かったけど、伝わった時の達成感があって、ちょっとずつ話すのが怖くなくなりました」
■ 最初の2週間、毎晩泣いた
St Paul’s Schoolでは、インターナショナルコース(留学生コース)に入り、少人数クラスで英語を中心に学習。入学初日に行われた語学レベルテストでは「真ん中のクラス」に振り分けられたものの、授業のスピードやボキャブラリーに戸惑い、最初の2週間は夜になると涙が出たと言います。
「言葉が通じないのが悔しくて。でも“毎日1回は自分から話しかける”と決めて、朝のお迎えの車の中や、夕ご飯の後とか、とにかくチャンスを探していました」
通学や買い物などで車の助手席に座ると自然と会話が生まれやすいと感じ、運転するホストマザーの隣を選ぶように。「何を話せばいいか分からなくても、黙っていたくなかったんです」

■ トラブルの中でも自分で考えて動く
ホストファミリーの家にはアジア系のほかの留学生が2名いました。その中で、お母さんの手作り弁当が捨てられていたという出来事が発生。誰がやったか分からず、居心地の悪い空気が流れる中、「もう自分で作った方が早い」と判断。
「スーパーで材料を買って、サンドイッチを作るようになりました。食堂で買うとカレーが900円、飲み物が400円とかで高くて、自炊が一番安心だったんです」
自分で判断し、動いたこの突然のトラブルが、以降の生活でも自信に繋がっていきました。
■ 英語は“使って覚える”ものだった
授業の英語がだんだん「聞こえるようになる」のを実感したのは、1か月が過ぎたころ。きっかけは、「英語って、結局同じことを言い回してるんだ」と気づいたことだったそうです。「“ここに書いて”とか、“それ見せて”とか、毎日聞いてるフレーズが少しずつ分かってくるんです。頭で覚えるより、耳で慣れるってこういうことなのだなと思いました」
ホストファミリーや他の留学生と交わす冗談や日常会話の中で、自然と語彙も言い回しも身についていったといいます。
■ 印象に残ったのは言葉より“空気感”
「韓国料理を食べに行った日が楽しかったです。もともと韓国料理は大好き。友達と好きなものを食べて、おみやげ屋さんで買い物して、自分用に大好きなマカロンを20個買って、部屋でひとつずつ食べたのもいい思い出です」
自分の機嫌を上手にとりながら、初対面の人とでも気軽に話し続けるオーストラリアの人々の“話す空気”に触れたことも、心に残っているといいます。
「オーストラリアの人はお喋りが上手なんです。初対面なのに40分くらいずっと話しかけてきて。“あなたに関心があるよ”という見えないサインが嬉しいし、“話そうとする空気”があるからこそ、自分も自然と会話に入れるようになったんだと思います」
「ごちそうさま、の代わりに、ありがとう、と言うんです。それが新鮮でした。ごちそうさま、にも同じ意味が込められていると思うのだけど、言葉に感謝を込める気付きがありました」
■ 留学を終えて
「実は、わたしの家族はみんな英語ができるんです。父も母も仕事で英語を使うし、姉も留学中。なのに私はbe動詞すら怪しい英語力。留学のきっかけは、やっぱり家族のように英語で人とコミュニケーションをとりたいと思ったことです。留学を決めて本腰を入れた英語学習も、自分になにが足りないのか具体的に見つけることができることからスタート、ぼんやりと“できない”と思っていた英語は欠点を見つめることで“できる”自信に変わりました。人に対しても“見えない何かに怯えていた”自分に気付いた、それが、自分にとっていちばんの成長だと思っています」
何気ない日常で自分から話すこと、失敗しても話し続けること、そして自分の判断で行動すること。英語力だけではなく、「自分を信じる力」が、この3か月の中で確かに育っていたH.H.さんの言葉です。
“そのままを受け入れる”という柔らかさ──K.A.さん(インターナショナルコース)がGleeson Collegeで学んだこと
普段から英語を使う環境で学んでいるK.A.さん(インターナショナルコース)。言葉への不安は少なくても、オーストラリア・アデレードでの留学生活は、語学以上の壁に直面する日々でした。“伝わる英語”の難しさ、そして異文化の中で築く関係性──。彼がこの3か月で得たのは、「英語を使って、どう人と関わるか」を考える力でした。

■ 英語は“伝わる”と“伝える”が違った
「空港までは不安でした。でも、いざ到着してみたら、言語的には全然問題なくて拍子抜けしたくらいです」
そう語るK.A.さんにとって、最初のつまずきは“会話”より“関係づくり”にありました。現地の学校生活では、すぐに授業の内容にはついていけたものの、周囲の生徒とうまく打ち解けられず、最初の2週間は孤独感に悩まされたといいます。
「誰とも話せないし、誰も話しかけてくれない。でも、自分からアプローチできる性格でもなくて、どうしたらいいか分からなかった。周囲の明るさに比べ、自分の表情に明るさが足りないせいかな、と悩みました」
そんな中、1人のクラスメイト、アミリアが声をかけてくれたことで空気が変わり、少しずつ交友関係が広がっていきました。「はじめは話す人もいないので、とにかく学校でわからないことは何でもアミリアに聞いて頼っていました。でもそのうち、交友関係の広い生徒のひとりが仲良くしてくれたことをきっかけに、どんどん友人が増えていきました」

■ 歴史の授業で気付く“視点の違い”
Gleeson Collegeはそのときの留学生は工学院の3名のみで、他は地元の生徒が通う学校です。
特に印象に残っている授業は、歴史の授業。「同じ戦争でも、語られ方が全く違っていて驚きました。日本では“自分たちの視点”が中心だったんだと改めて気づきましたし、植民地の歴史を持つ国の考え方を知りました」
また、生物の授業は工学院でも英語で学んでいるため大きな負担はなく、「“勉強”というより“確認”の感覚でした」
それでも現地の授業では、“考えを述べる”姿勢が求められる場面が多く、英語力のある彼にとっても「どう話すか」より「何を言うか」が問われる貴重な経験だったと言います。
■ ホストファミリーとの関係から学んだ柔軟性
K.A.さんが滞在した家庭は共働き。朝は家族の出勤にあわせて、まだ誰もいない早朝に学校へ送り出され、帰宅後も夕食が準備されていない日もありました。
「そういう時は、冷蔵庫のものを食べていいと言われていたので、残り物を温めたり、自分で作れるものを作っていました。最初は“放置されているのかな”と不安に思いましたが、ファミリーは悪気はないようで、とてもおおらか。きっちり毎日決まって揃って食事をとる習慣ではないということ、これも文化なのだと受け入れました」
日本との違いを否定せず、そのまま“そういうもの”として理解することで、心の距離も縮まっていったといいます。
■ “自分で探す”力が身についた日常
工学院では硬式テニス部に所属するK.A.さん。留学中もトレーニングを続けたかった彼は、自ら周辺のジムを調べ、契約に必要な書類をホストファミリーに頼むと快く記入してくれたため、通い始めることができたそうです。
「最初はどう聞けばいいかも分からなかったけど、“やりたい”という気持ちを伝えられた経験は大きかった」「はっきりと意志を伝えることで喜んでくれているようにも見えた」と言います。目的のために必要な行動を言語で整理し、交渉し、実現する。このプロセスそのものが、まさに“英語を使って生きる力”になったと語ります。

■ 留学を終えて
「英語は元から特に問題はないと思っていました。でも、相手に“届く”ように話すことの難しさを知ったのが一番大きな学びです」
相手の文化や考えを尊重し、“正しく話す”ではなく“気持ちが伝わる”ように話すこと。そのためには、内容の順序、言い方、空気の作り方まで含めて“伝える力”が問われるのだと気づいたK.A.さん。
「実は、最後の2週間は日本に帰りたくなっていました。友達もたくさんできて楽しくなったのに、新しい環境で急に多くの人と知り合うことで、逆に疲れてきていたのかもしれません。それは思ってもいないことでした」と、言葉よりも、関係性に揺れたK.A.さん。
「これから先もなにかの形で海外と縁があるかもしれません。“英語で何をするか”を考え続けたいです。言葉は道具だけど、使い方次第で自分をどう見せるかが変わるから」
3か月の留学を終えた今、自らの成長を静かに、しかし確かに受け止める姿がそこにありました。
こちらでご紹介した3名をはじめ、今年3か月留学に出発した7名は、慣れない環境の中で戸惑いながらも、誰かとの小さなすれ違いを、自分の行動でひとつずつ乗り越えてきました。彼らが手にした“本当の意味での成長”は、一人ひとりの中に深く根づいています。異なる言葉、異なる文化、異なる人々の中で、自ら問い、選び、動いたこの時間は、これから彼らが歩んでいく未来にとって、彼ら自身が人生の中で繰り返し立ち返る原点になるのかもしれません。
(広報室)
※本校の「オーストラリア 3か月留学」プログラムは、東京都私学財団の「私立高等学校海外留学推進助成事業」の対象となっており、参加費用の一部が助成されます。この制度は都内の私立高等学校に在学し、学校の推薦を受けて海外留学プログラムに参加する生徒を対象としており、都内在住でない場合も適用されます。(令和6年度)