高校未来への挑戦 対談から見える可能性
未来への挑戦対談から見える可能性
未来への挑戦 対談から見える可能性~自己探求とグローバルな視野の追求~
2024/08/20
今回は、2024年3月に本校インターナショナルコースを卒業し9月より米国Williams Collegeに進学するOさんを中心に、海外大学への進学を望む高校3年生のAさんとTさん、中川千穂教諭との対談をお届けします。
Oさんは柳井正財団の海外奨学金プログラムの奨学生としてWilliams Collegeに進学します。
この対談では、学校生活での葛藤や将来の目標をどのように見つけ、その資質がどのように育まれ、確かなものになったのかに焦点を当てています。特に「孤独」、「サブカルチャー」、文化についての理解や、自分が創りたい文化、どのような世界を目指しているのかについて詳しく話し合いました。卒業生のOさんは「自己同一性」を深く考え続けており、その思想や行動についても詳しく伺いました。
中川(司会):皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。まず、皆さんが人生の目標や目的をどのように見つけ、どのように成長してきたのかをお聞かせください。
Oさん:私は、特定の大きな目的に向かって進んでいるわけではなく、日々のあるがままの興味を大切にしています。今は文学や東洋の文化、思想、宗教に興味があります。私にとってのリベラルアーツの本質は、自分の変わる興味を第一優先にして学べるということです。この先も、自分の興味が変わると思いますが、それを尊重して進んでいきたいです。例えば、高校時代では文学を中心に研究しましたが、将来的には音楽や美術など他の芸術分野の知見も深めたいと思っています。
中川:大学ではどのような学びを具体的に考えていますか?
Oさん:私が行くWilliams Collegeはリベラルアーツの大学なので、一つの分野を専攻しつつも多種多彩な学びを得ることができます。例えば、一学期目では音楽理論、東アジア芸術史、インド絵画手法、天文学を学ぶ予定です。リベラルアーツの一つ目の魅力は、一つの分野に縛られず、多様な分野を横断的、学際的に学べるところにあります。
専攻としては比較文学を考えていますが、他の興味ある分野にも積極的に触れていく予定です。さらに、非西洋的文化の意義という視点に焦点を与えるために、自分でオリジナルの専攻を作るという選択肢も検討しています。グローバル化以前から世界の各地域に存在してきた文化や思想がどのような役割を果たしてきたのかということについて研究し、また、それらは現在や今後世界にどのような意味を持つのかということについて考えていきたいです。
また、リベラルアーツの大学には、少人数で密接な学びができるという二つ目の魅力があります。特に、Williams Collegeには学生2人と教授1人から成り立つチュートリアルという授業があります。高校時代、私は興味のある哲学や文学という学問的分野を深めようと独りで研究していましたが、時としてその意義を見失ってしまった経験があります。最終的には「学問とは他者との深いところでのコミュニケーションを実現させるために存在するものであり、学問自体を極めることに価値があるわけではない」という独自の考察にたどり着きました。そして、自分の信念を共有することに熱心な教授や、独自のパッションをそれぞれの分野で持った多様な学生が集まるWilliams Collegeこそが、この自分の学問に対する意義を最も追求するできる場所だと信じ、今とても楽しみにしているところです。
Aさん:僕は、異なる文化圏をまたぐ自分という感覚があまりありません。スペインにいたとき、自分は米国人の要素があるのかと考えたことはなく、今もそう思います。文化を跨ぐことに違和感がないというのも、自分のアイデンティティとしてどうなのでしょうか?
Oさん:今の段階で自分の中でアイデンティティが整理できているのであれば、それはそれで良いと思います。奨学金のためのエッセイを書く時となると、自分のパッションを持って将来どのように社会に貢献したいか問われます。自分の文化的バックグラウンドについてのみならず、興味や信念など、包括的に自分が持つ資質について考えてみてください。そして時として、最初に気づく資質が実は表面下の文化的バックグラウンドに原点を持っていたと気づくこともあります。自分のアイデンティティとは、ある日突然意志することによって単一的に現れるわけではなく、今まで生きてきた全ての年月分の様々な要素が絡み合って形成されていて、そう単純なものではないのです。
私自身、中学3年生の時にニーチェを読み、彼の孤独を肯定する様に衝撃を受けた経験があります。その頃は、孤独とは哲学や文学などの学問を極めるために自分が選んだ道なのだと思っていました。しかし、最近になり、そもそもニーチェが自分に訴えかけたのは、自分が帰国子女としてどこにも完全に属さないという背景が大きく関係していた、と納得できるようになりました。きっとAさんが生きてきた経験も全て今のAさんを作っていて、将来になってその関係性がより見えてくるかもしれませんよ。
Tさん:僕はAIやコンピューター系に興味があります。子供の頃から、父が「あのときにコレをやっておけばよかった」と時間がないことを嘆いていることが原動力です。なので僕は、AIを使って時間を節約し、自分を磨くための時間を捻出したいと考えています。でもいまはこの考えがぼんやりと膨らんでいて着地点を見出せません。Oさんはどのように目的を明確にしていったのですか。
Oさん:私は純粋にやりたいことを日常的に推し進めていて、目的をあらかじめ設定しているわけではありません。日常レベルでしか見えない気づきや興味が積み重なることによって、結果的に大きな方向性が自然に決まっていくと信じているからです。 しかしこのためには、自分の日々浮かぶ気づきを肯定し、それらを自分なりに蓄積・体系化させるシステムが必要です。私にとってこの役割を果たしたのは、書くことでした。ただ自分の思考を自分のために書きためるのです。そうすると、その思考一つ一つがより鮮明に存在するものとなり、また自分のものとなります。そしてそのプロセスを繰り返すことにより、自分の世界観がだんだん生み出されます。 ただ、一人で進める道には限界があります。これは、書くことや孤独は「胃」というあくまでも消化器官であり、肝心の栄養を持った「食」は他者や世界であるからです。「胃」とは「食」がないと全く意味を持たないものです。これに気づいてから、私は多くの先生方や友達、さらにはボランティア活動を通じて様々な形で社会を成り立たせている人々と、積極的に関わるようになりました。そして、私が次に行くリベラルアーツの大学こそが「人から学ぶ」ということを重要視しているので、世界中からの様々な考えや文化を持った人々と出会えることが最大の楽しみです。
Tさん:僕も人と関わることの重要性を感じています。特にAIやコンピューターの分野では、技術的な知識だけでなく、他者との協力やコミュニケーションが不可欠です。異なる視点を持つ人々と協力することで、新しいアイデアや解決策を見つけることができると思います。また、大学での学びを通じて、自己成長だけでなく、社会に貢献できる力を身につけたいと考えています。
Aさん:僕の場合は、大学へ進学する理由としては、絵を描いていきたいので画力を高めることで自分の作品の表現を介して人とより多くのコミュニケーションを図りたいため、なのです。人との交流よりスキルを求めています。Oさんは大学進学への動機に直接的なスキルはあまり求めていないのですか。
Oさん:私も過去にヴァイオリンやヴィオラ、ドイツ語や哲学など、様々な分野での「スキル」を身につけようと手をつけたことがあるのですが、一つ気づいたことは、私は一つの分野でのスキルを磨いてその分野のみから訴えるというよりは、様々な分野を横断し続けることによって独自の考えの道を切り開いていかなければならないということです。いわば「考えること」が私のスキルであるかもしれません。ですからもちろん、大学で得る学びや経験は私にとっての「考えること」を大きく刺激するでしょうし、またその後においてもきっと私はこのスキルを磨き続けていくと思います。
中川:皆さんの話を聞いていると、人との関わりや多様な視点を持つことがいかに重要かがよくわかります。私も教師として、学内外を問わず年代の異なる生徒たちとも関わりながら新しい発見や学びを得ています。異なるバックグラウンドを持つ人々との交流は、自分自身の視野を広げるだけでなく、他者への理解を深める素晴らしい機会です。皆さんもこれから大学に進学して、多くの人々と出会い交流することで、さらに成長していってほしいと思います。
中川:自由、多様性、自分が創りたいもの、これらについて教えてください。
多様性を求める、これは私がアメリカに行く最大の理由です。日本では常に、自分であるために戦い続けなければならないという感覚がありました。しかしアメリカでは異なるスタンダードや背景を持った人が集まっているので、自分もその異なる一人としてすんなり居やすい感覚があるのです。
しかし、多様性は同時に対立を常に生みます。そのような光景がニューヨークに住んでいるだけでひしひしと伝わってきて、自分はどこに属するのかと度々考えさせられます。しかし、私自身が私のために下す答えはいつもこうです:どこにも属さないからこそ、全てに属するのだ。そして常に目の前の人の表面の下、その人が生きてきた言語や文化、そこに潜む生命やエネルギーを探そうとします。このようにして自分の道や文化はきっと背後に創っているのでしょうけれども、私が常に目の前に見えるのは、真実の多様性・多元性という無秩序な渦。でもそうやって自分は自由を得ているのだとも思います。
中川:Oさん、在校生にメッセージをお願いします。
Oさん:私は誠実さということを自分が生きる上での何よりのモットーとしていて、その重要性を強調したいです。
日々の生活や進路決定などで悩んでいたら、まずは自分とじっくり時間をかけて向き合い、周りの人の期待ではなく自分が本当にしたいこと・欲しいものは何なのかということを考え、それをまずは認め肯定するということです。
人間は、自分との歩幅が合い、自分の本心と自分の意識が合わさっている時に、最も本領の力を発揮できるのだと思います。自分に対して嘘をついていて、自分の本心と意識が乖離している限り、何も進まないのだと思います。
それと同時に、自分のみが責任を持っていると思いがちな自分の意見や考え方とは、実は今まで自分が読んだり聞いたり交流してきた様々な他者のもののユニークな組み合わせである、ということも伝えたいです。自分の意見とは、ある日創ろうと思って出来上がるものではなく、逆に経験によりすでに自分の中に創られていて、それを察し繰り出そうとすることが、自分と歩幅を合わせることであり考えることなのだと思います。
そして、自分が触れる他者が多様であれば多様であるほど、それらの価値観の乖離から自分に最も納得のいく道を探そうと、考える必要性も増します。そのような考えるプロセスに終わりはありませんが、その都度自分の中に現れる考えはそう浅いものではありませんし、何よりもエネルギーと推力を持って生きていけるのだと思っています。
中川:素晴らしいメッセージですね。Tさん、あなたはどう感じていますか?
Tさん:Oさんとの対話を通じて、僕自身も大きな感動を覚えました。彼女の話を聞いて、自分の興味や関心をもっと深く追求することの重要性を再認識しました。特に、彼女が自分の経験を通じて学び、他者と共有する姿勢には大きな影響を受けました。僕もこれからは自分の意見をしっかりと持ち、それを他者と共有することで、成長していきたいと感じました。
中川:Aさん、あなたはどうですか?
Aさん:僕は絵を描くことが好きで、それが自分の表現方法です。自分の描く絵を通じて、他者とコミュニケーションをとりたいと思いました。絵を描くことで、自分の内面を表現し、それを他者と共有することができます。また、絵を通じて新しい視点やアイデアを得ることができると感じています。人との交流は、僕は対話の形はあまり積極的にはなれないのですが、自己表現としての作品を通して、と考えると納得ができます。
中川:絵を描くことも素晴らしい表現方法です。自分の内面を表現することで、他者とのつながりを築くことができます。対話でなく作品で人に伝える、というテーマも面白そうですね。あなたの絵は多くの人に感動を与えると思います。
皆さん、今日は素晴らしいお話をありがとうございました。皆さんの話から、多くのことを学びました。これからも自分の興味を大切にしながら成長してほしいと思います。
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以上は対談のごく一部をまとめたものとなります。音楽や哲学、文芸など芸術に造詣の深いOさんを招いてのこの対談が若者たちの未来への挑戦を示すものとして、多くの中学生や高校生の何らかのトリガーとなることを期待しています。工学院大学附属中学校・高等学校は、これからも彼らをはじめ生徒たちの未来への挑戦と成長を見守り、伴走していく所存です。
編集:広報室
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【登壇者の詳細】
中川千穂:英語科主任。現在は高等学校インターナショナルコースの担任。兵庫県出身。
Oさん : 2024年卒業生。 6歳から9歳までニューヨークに滞在。日本の公立小中学校を経て、高校は工学院のインターナショナルコースに在籍。9月より柳井正財団の海外奨学金プログラムの奨学生として米国Williams Collegeに留学予定。音楽から始まり、思想、文学、シアター、美術に関心を持つ。
Aさん : インターナショナルコース高校3年生。2歳で中国、4歳でアメリカ、13歳でスペインとトータル14年間海外に居住。趣味はイラストレーション、ゲーム、茶道。
Tさん : インターナショナルコース高校3年生。留学経験なし、小中は日本の公立学校に通う。東京在住。バスケットボールは6年目、音楽作りやDJを趣味にしている。
【参考】柳井正財団 海外奨学金プログラム