高校【情報Ⅱ】ICT×生成AI ─「学びを自在に」DXハイスクール採択2年目の挑戦

【情報Ⅱ】ICT×生成AI ─工学院の「学びを自在に」DXハイスクール採択2年目の挑戦

【情報Ⅱ】ICT×生成AI ─工学院の「学びを自在に」DXハイスクール採択2年目の挑戦

2025/4/22

本校は、新たに文部科学省の令和7年度「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」(※1)に採択され、今年度で2年目を迎えました。
DXハイスクールは、ICT環境の高度化と情報教育の充実を通じて、生徒の探究的な学びと社会実装力を育成することを目的とした国の取り組みです。この採択が、これまでの本校の情報教育の取り組みに新たなブレイクスルーをもたらしています。
昨年度は本校でも「情報Ⅱ」の授業を新たに開設し、今年は2年目。高校3年生を対象とした自由選択授業であり、1・2学期にわたって履修されている授業「情報Ⅱ」ですが、手探りでスタートしたこの授業は、生成AIの導入やデータサイエンスの実践を通して、生徒たちの主体的な学びを大きく後押しするものとなっています。
今回は、情報科主任である新海龍一先生に、DXハイスクール採択一年目の振り返りと成果、そして情報Ⅱの授業について今後の見通しを詳しくうかがいました。

情報科主任 新海龍一先生

昨年のDXハイスクール採択1年目、どのような取り組みを進め、どんな成果がありましたか?

昨年の「情報Ⅱ」の授業ではデータサイエンスの導入を中心に進めました。
例えば、「InBody」(※2)という体組成計を導入し、これまで以上に生徒自身がリアルなデータを取得できる環境を整えました。生きたデータを扱うことで、統計や分析が机上の空論ではない、実際の生活や活動に結びついたものであると実感できたと思います。
また、トップアスリート育成部の生徒たちと連携し、得られたデータをトレーニングの改善や効果測定に活かす取り組みも始めています。
こうした授業設計は、学びを学校生活全体に還元するというDXハイスクールの理念にも非常に合致していると考えています。

データサイエンスの授業では、どのような工夫をされましたか?

最初は、基礎的な統計処理からスタートしました。データを収集し、表計算ソフトでグラフ化し、回帰直線を引いてみるなど、数字と可視化を結びつける体験を重ねました。
授業を進めるうちに、生徒たちはグラフや統計結果を通じてデータに親しみを持つようになり、自分なりに「ここに特徴がある」「こう改善できるかもしれない」という仮説を立てるようになりました。 さらに、データを単なる分析で終わらせず、どのように実生活や部活動に活用できるかを考えさせることにも力を入れています。
特に、野球部員の体組成データをもとに、ポジションごとに適したトレーニングメニューを提案するという取り組みは、今年度これから挑戦していきたい目標の一つです。

生成AIを導入したプログラミング授業についても教えてください。

昨年度はChatGPTの有料チームプランを導入し、プログラミング学習に活用しました。最初は教科書に沿った形で、基本的な文法や構文を順番に学ぶ授業をしていました。しかし、それだけでは生徒の創造性や実践力を十分に引き出せないと感じ、途中からChatGPTを活用した新しいアプローチに切り替えました。
具体的には、まずAIにプロンプトを投げてプログラムの大枠を作成させ、その後で自分たちの目的に応じて細部を修正・拡張していくスタイルです。完成形の大枠を先に見せることで、生徒たちは「何を直したいのか」「どこを工夫できるのか」という視点で学びを深めることができました。
私は、生成AIを「脳の拡張機能」だと捉えています。生徒たちもAIを単なる答え合わせの道具ではなく、創造を広げるパートナーとして使いこなす感覚を少しずつ身につけてくれたと感じています。

生徒たちの成長で印象に残っていることはありますか?

生徒たちは本当によく応えてくれました。例えば、Classroom(※3)から課題提出情報を自動取得して整理するアプリを作った生徒や、科目別に学習時間を管理し、仲間と「学習マラソン」を競い合うタイマーアプリを作った生徒もいます。作成したアプリはスマートフォン用、web用と様々で、最後に発表会を行い、それぞれが工夫を凝らした内容を発表してくれました。
また、与えられた課題を単純にこなすだけでなく、自分なりにアレンジしようとする意欲が強く、主体的に取り組む姿勢がとても印象的でした。
私としても、学校の成績とプログラミングのセンスに必ずしも相関性がないという実感がありましたね。
学力偏差値が高いからといってコードが得意とは限らず、むしろ「好きかどうか」が大きな差を生むのだ、と。プログラミングは言語のようなもので、日常的に触れているかどうかが上達を左右する、まさに「続けること」が鍵だと強く感じています。

今年、情報Ⅱの2年目の挑戦について教えてください。

昨年度は私自身も手探りで授業を進めていました。今年度はさらに、生徒たち自身が「考え、試し、改善する」プロセスにしっかり時間をかけられるよう、導入部分の説明を最小限にとどめる予定です。
2学期以降は、データサイエンスの取り組みをさらに深化させ、トップアスリート育成部と連携した実践型プロジェクトにも力を入れます。データ収集、分析、施策の提案、再評価というサイクルを「1往復」として確立し、実際に成果を学校生活や部活動に還元できるようにしていきます。 また、ChatGPTを活用したプログラミングの取り組みも継続し、より高度な応用力を生徒たちが身につけられるようサポートしていきたいと考えています。

工学院のICT環境の強みについて、どう感じていますか?

本校では、中学1年生から一人一台PCを持ち、日常的にICTツールを活用する文化が根付いています。生徒たちにとってPCを使うこと自体が目的ではなく、「ツールをどう活かして何を実現するか」という発想が自然と育っています。このICTリテラシーの高さが、生成AIやデータサイエンスといった新しい分野にも抵抗なく順応できる素地になっていると感じています。
日常的にICTを使いこなしていることが、生徒たちの思考の柔軟性や探究心を高め、プロジェクト型学習や実践的な探究活動へのスムーズな移行を可能にしているのだと思います。

最後に、「生成AIを活用した学びは、人間らしい自由を本当に実現しているのか」という問いについて、先生のお考えを聞かせてください。

そうですね、哲学的な問いですね。歴史の中で「便利」が後退したことはあまりないと思っています。時代の流れに抗う必要はないし、むしろ順応していったほうがそれが楽しいと感じる場面も多いように感じています。
どんな世界に生きるかは個人の選択に委ねられ、そこに正解や不正解は存在しないと私は考えています。
生徒たちにも、自分が一番心地よく生きられる場所を、自由を、自分の感覚で選び取って自分の道を進んでほしい。もし、同じ問いを生徒にされたなら、そう答えます。
生徒たちが人生のあらゆる選択を支える力の一端をこの学校で培い、支えていきたいと思っています。

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DXハイスクールの採択を機に、本校の情報教育はさらに進化を遂げようとしています。
生成AIやデータサイエンスの活用は、単なるツールの習得にとどまらず、生徒一人ひとりが自らの力で世界に働きかける自由を手にするための挑戦でもあります。
世界の変化に柔軟に順応しながら、自分自身で考え、選び取り、形にしていく力。
本校は、情報科のみならず他の教科や生徒たちの様々な活動とのコラボレーションを通して、これからもそんな「学びを自在に」する教育を大切に育み続けていきます。

広報室

(※1)令和7年度 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)
文部科学省が推進するデジタル人材育成を目的とした補助事業。採択基準は多岐に渡る項目で評価され、得点上位の学校から順に予算の範囲内で採択校として決定されます。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/shinko/mext_02975.html

(※2)「InBody」は、人体を構成する体水分、タンパク質、ミネラル、体脂肪の4つの成分を定量的に分析する体成分分析装置。特に、筋肉量や体脂肪量の変化を測定し、健康管理やトレーニングの効果測定などに活用されます。 (株)インボディ・ジャパン https://inbody.co.jp/

(※3)Google Classroom(グーグル クラスルーム)はGoogleが提供する学習管理アプリです。本校では教員と生徒・保護者との日常的なコミュニケ—ションに利用しています。